大島博光さんに捧げる詩(うた)


  

 大島博光さんに捧げる詩(うた)
          詩人会議 小森 香子

とうとう いってしまわれた のですね
でも あなたは ここにいます
この 私たちの 平和と民主主義を守る
民衆の足音 憲法九条を生かそう の叫びの
言葉の波の中に おだやかに ほほえんで

私が あなたに出会ったのは 一冊の本でした
朝鮮戦争のさなか まだ二一歳だった私
米軍特需の図面に唇かんで 工場で働き
愛と怒りの やり場もない 貧しい少女が
書店の灯の下で 胸に抱きかかえた一冊の本

レモンイエローの表紙に すっくと立つ女性
高らかに吹き鳴らす『フランスの起床ラッパ』
一九五一年春 出版されたばかりの一冊の本
大島博光編と書かれたレジスタンスの詩集が
それからの私の詩の 強い導きの星 でした

ルイ・アラゴン ポール・エリュアール
彼等の魂を あなたは生き生きと日本の言葉で
若者の胸に伝えてくれた 彼らが語るように
そして占領下の しいたげられた自由と平和を
本ものの 平和にするたたかいを 励ました

そして私は 出会ったのです あなたに その人に
詩人会議で 壺井さんと共に おだやかに誠実に
若かった私たちを励まし支えて くれました

チリで軍事クーデターが起り アジェンデや
パブロ・ネルーダが殺された時 私たちは
共にチリ人民連帯委員会の常任として活動し
励ましあって 多くの集会やデモに詩を書いた

夜の会議や詩や音楽の集会に熱心に参加し
パブロ・ネルーダの人と作品を翻訳し知らせ
崇高な志と情熱を 若者たちの血にそそいだ

静かに去ってしまった大島博光さん もしか
心のうちには憲法九条を踏みにじろうとする政治への
激しい憤りを秘めておられたのではないでしょうか

かってパブロ・ネルーダを見送ったデモの
労働者や婦人たちの「プレゼンテ!」(ここにいる)の叫びを
私はいま あなたに 贈りたい
ずっとあなたは 詩人会議や九条の会「詩人の輪」の
運動を 見守っておられるに ちがいないから
 大島博光 プレゼンテ!
  あなたは ここにいる 私たちと共に