1
わが地球は真夜中 相変らずまだ真夜中だ
心の流れの上でも愛の戦線の上でも真夜中だ
悲しみと歯ぎしりの真夜中
時代の奥底から消えやらぬ怒り
戦争という老いぼれの大根役者が
またしても舞台にしゃしゃり出てくる時
繰りひろげられる黙示録 大量の鉄鋼
アルミニュウムの爆撃機
銀の飛行機 みごとな蜃気楼(ミラージュ)戦闘機
そして人民の首には締めつける貧困の首輪
風にひるがえる旗
老いぼれの大根役者は
新石器時代の初めのように若く美しく
腕の筋肉をふくらませて見せる
さあ 悲劇が始まる
悲劇でさえもない
世にも愚劣なドラマ あの昔ながらの陳腐な戦争劇だ
金持ちどもの太鼓腹の 抑えがたい欲望のように
傲慢な文明の癌よ
赤と金の幕が震えるままにしておけ
まさか そんなことがありうるのか
いや ありえまい あまりにばかげていると
多くの人間は龍涎香と蜂蜜を手にして言う
とてもがまんできはしないと
考えることが何を意味するかを知ってる人が言う
しかし まさに
人間もひとつの自然消滅を迎えるのか
2
あの昔なじみの大根役者が
おれたちの処へやってくるそのたびに
おれたちは街路(まち)や四辻を占拠し
街道を封鎖し 鉄道線路をとっ払い
権力者どものだんまりや謀略をあばき出し
大声で叫んだ 耳の聞こえない人たちの寺院の中でさえ
オリーヴ畑の中でさえも
(ほんとうを言えば おれたちは
驢馬の啼き声や軍国主義の狼どもの遠吠えや
犬どもの吠え声を抑えつけられなかった
ラジオのスピーカーは 他者たちの死を
ヴォリュームをあげて放送した)
おれたちは吊された 槍先に
鉄格子に 横木に
世にも怖るべき処刑台に
うち立てられた無秩序の番人どものマントに
おれたちはやつらの鉄砲の台尻に噛みついた*
(きみだけはひとりそのことをよく知っているがなんにもできない
きみはおのれの弱さを計(はか)り おのれの声の中に
きみは貴重な無数の叫びを探す)
どんちゃん騒ぎの世界の大立法者は
大いなる正義の書の上に右手を置く
そこには何も書かれていない 何も読みとれない
彼の白い右手はピラトー** のそれのよう
彼は宣告する 彼の判決を おお民主主義よ
なんと独裁者はおぞましいものか
独裁者には全く我慢がならぬ
笑いだす者はひとりもいない
まったく独裁者はおぞましく
独裁者は憎むべきものだから
そして犯罪と恐怖 この独裁の問題は
重大な問題なのだ
理論においても実践においても
笑いだす者など だれもいない
だれをだませよう 人民を抑えつける卑劣な手よ
自然発生によって
独裁者は生み出されるなどと
(独裁も自然の大災害〔キャタストロフ〕なのか)
3
犯罪の芽はどこにめばえるのか
誰が そして何が圧制をつくりだすのか
やつら暴君どもは秘かに進める戦争から生まれる
戦争はけっしてその名を言わないだろう
死神の姉妹(シスター)の 近親相姦から生まれた兄たちは
彼らの出資者(スポンサー)たちと同じで
憲兵隊の障害物競争などによって
見栄を切る
流れる血への渇望と富と
(壊滅するまで それが廃墟となるまで
それが悲愴に落とすまで 飢餓となるまで 窮乏に追いやるまで
と 大陸の白い手をした大蔵大臣が言った)
彼をあざ笑えるだろうか
死の武器の大取引
爆弾の雨が降り そして屍はよみがえる
死者はいない とひとはきみたちに言う
さあ行った行った そこに見るべきものは何もない
大砲は大きく口を開けて戦争は終わるだろう
廃墟が相変らずその黒い歯をむき出している
大恐竜が緋色の王衣をでんとまとっている
王侯たち大臣たちはその過ちを水に流す
利益や損失をめいめい忘れる
おのれの過失 虚偽 あくどい手口を
計算と誤算と 計算はどれも似たりよったり
なぜ戦死者を数えるのだろう?
(戦争は政治の致命的な失敗を明らかにした 脳の弱さを)
赤と金の幕の隙き間で
したたかな王者 大根役者はせせら笑っている
勝利者たちはいばらの冠を受けるだろう
大根役者は未来のごみ箱の中をかきまわす
4
勝者がへとへとに疲れて歓喜する前に
敗者がにがい絶望を味わう前に
勇気が廃墟となる前に
撃つのをやめろ
孤児たちが復讐の念に駆られる前に
母親たちが雷にうちひしがれる前に
勝者が勝利の酒に酔い死者を悼む前に
撃ち方やめ
破壊をふり撒き 憎しみの悪臭を
ふり撒く みごとな勝利
勝利は圧倒的だった と勝者はいう
勝利の前に平和の権利を宣言せよ
略奪が少ければ少いほど儲けは少い
というのも 戦争は人知れず儲かると
信じなければならないからだ
撃ち方やめ
ゴルゴン*** の頭をした勝利の前に
あらゆる勝利の前に
戦争の大根役者が笑いながら
舞台にもどってくる前に
かれがランプに火をともす前に
撃ち方やめ
訳注* 鉄砲の台尻に噛みついた││この詩句は、ランボオの『地獄の季節』の冒頭の詩のなかに見いだされる。││「おれは死刑執行人どもを呼んだ、命果てながら、やつらの鉄砲の台尻に噛みついてやるために」ここでゴーシュロンはランボオを思い浮べながら、つぎのかっこの中の三行を書いたものと想像することができる……
**ピラトー││古代ローマの法官。キリストを裁判にかけ、何ら処罰の理由がないと宣言しながら、キリストを笞刑にかけ、十字架につるした。
***ゴルゴン││ギリシャ神話の、蛇の頭髪をもち、見る者を石に変えてしまうという怪物。