熱狂や喧騒にみちみちて
戦争や殺戮や恐怖によって暗澹として
暮れてゆく二〇世紀の上にかかった
夜明けの虹のような一団よ
自由を求める心のように素朴で純粋な
正義という基本理念のように単純な
夜明けの虹のような一団よ
地球の規模で体験された伝説
スペインのために闘った「義勇兵たち」の伝説よ
小心でこせこせする歴史も 一瞬
果てしない論争を忘れて
道をゆずるがいい
この伝説の前に身をかがめるがいい
肉と血をもったそれらの人たちのひとりひとりの前に
それらの人たちはそれぞれ自分の手を見ながら
自分の道具を洗った
そしておのれの心の奥でただひとり
遠くへ出かけてゆく辛い悲しさをもって
愛する人たちと別れてゆく自分の勇気を計り
出発するという誇らかな計画を一挙に決めた
それだけがただひとつの義務であるかのように
その人たちはそれぞれ
自分の額の奥では孤独で
無関心な人びとのきまり文句には耳もかさず
その人たちはそれぞれ出かけて行った
ひとつの手がもうひとつの手と握りあえば
絶望や不幸にたちむかう
堅い城壁となることをもっとよく知るために
その人たちはめいめい出かけて行った
なんにもない貧しい自分の家から
それはやがて百人となり
数千人また数千人となり
数万人となる
十万の人たちよ 知るために行きたまえ
出かけて行きたまえ
自分の大地のうえで
自分の国の軍隊に
襲われ攻撃されて
戦ってる人民に合流するため
出かけて行きたまえ 人殺しどもの
餌食となってる共和国を救うために
ひろい空間を越え
山やまを登り
海や大洋をよぎり
つっけんどんな役人どもをおしわけて
みずから道を切りひらきながら
すべての国境を越え
官憲の眼をかいくぐり
密輸の小道を通って
幹線道路をゆく
数千の人たち
市民戦争と呼ばれる
戦争にふみにじられた
なんにもない貧しい人民に
いつまでも
手をかしにやってきた人たち
「必要とあらば
スペイン人の半分を銃殺させよう」
フランコ将軍はこう言ってのけた
数千人でやってきた人たち
栄光にみちた人たちではなく何んにもないしがない人たち
名声を求める者ではなく
金をせがむ者でもなく
計算ずくの者でもなく
戦士ではなく闘士
自由のためには死をも怖れない
そうして拳を高く拳げ
五本の指で告げるのだ
平和な世界への共同の希望を
若き日に革命を夢みながら
老いの日に不幸を終らせようとした反抗者たち
かれらの手は自分の道具しか知らなかった
工場の道具と畑の道具しか
かれらはただ武器を求めていた
傲慢や侮蔑とたたかいながら
狂暴なやからに面とむかって
戦線でもよし
砲火にもよし
突撃にも襲撃にもよし
戦略にもよし
戦略がなくともよし
徹底的な防戦にもよし
そこ 生と死との名誉が
溶けあっているところで
陰険な謀略の逆光に抗して
みんなが不気味な盲目となるような流れに抗して
すべての臆病なやからの
死の策謀に抗して
つつましやかにきっぱりとした勇気をみせた「旅団」よ
おお はっきりとものを見とおした「旅団」よ
きみたちはやってきた
戦争の化け物どもの行手をはばむため
挑発者どもに立ち向かうため
できるものなら
不吉な火の粉を
世界じゅうにひろがる未来の大火を
おりよく消しさるため
おお はっきりと見とおした人たちよ
敗けた奴はいつもまちがっている
というのは から威張りするやつらの口の中だけのこと
つかの間 勝った奴らの気休めのおしゃべり
しかし正しかったのはきみたちだ
万難を排して
とてつもない犯罪の前に立ちはだかったきみたちだ
きみたちは
きみたちだった
はっきりとした見とおしと理性よ
未来はやがて
ああ 遅すぎたが
きみたちの正しかったことを認めた
(二〇〇〇・二・四)
原注* 一九九六年、「国際旅団」結成六〇周年を記念して、A.R.Tによって『自由への情熱』が刊行された。この本を入れる箱を、ボスリ・タスリッキーの石版画が飾り、それにこの詩が添えられた。
訳注 「名もない者のなかの名もない者」の革命への参加を主題として追求されたのが「国際旅団の伝説考」である。
一九三六年、ファシスト・フランコによるスペイン共和国にたいする襲撃から、スペイン市民戦争が勃発した。フランコはヒットラーとムッソリーニの強力な支援をとりつけていた。
ファシズムの脅威に対抗するために「人民戦線」がつくられた。それは世界じゅうの人民の連帯を呼びさまし、スペイン人民を支援しようと、世界じゅうから「自由の義勇兵」たちがスペインにやってきて、
英雄的な「国際義勇旅団」が編成される。それは国際的連帯の模範として賛えられた。スペインの詩人ラファエル・アルベルティは歓迎と賞賛の詩を旅団にささげた。
きみたちは遠くからやってきた・・・だがその遠さも
国境を越えて歌うきみたちの血にとって何んだろう
避けられぬ死が毎日きみたちを名ざすのだ
町なかだろうと野っぱらだろうと路上だろうと お構いなしに
こっちの国あっちの国から 大きな国小さな国から
ほとんど地図の上に色もついていないような国から
おんなじ根から生まれた おんなじ夢を抱いて
素朴で名もないきみたちは 話しながらやってきた
(大島博光訳『マチャード/アルベルティ詩集』土曜美術社出版販売)
こうして五〇〇〇人の義勇兵たちがスペインの大地にその骨を埋めたといわれる。そうして伝説が始まる。
「素朴で名もない」その人たち、「何んにも持たないしがないその人たち」はやってきた。名誉も何んにも求めずに、その人たちはスペインにやってきて、その命を差し出した。
──「それだけがただひとつの義務であるかのように」そしてその義務の名は国際的連帯というものである。
ひとつの手がもうひとつの手と握りあえば
絶望や不幸にたちむかう
堅い城壁となる──
こうしてその人たちは、狂暴な敵を相手に「きっぱりとした勇気」をみせて、スペインの大地に仆れた。
その人たちの献身、勇気、死はけっしてむだではなかった。「はっきりと見とおしていた」その人たちの選択は正しかった。「未来はやがて/ああ 遅すぎたが/きみたちの正しかったことを認めた」のだ。
人民の歴史はその人たちをけっして忘れないだろう。くりかえし伝説は語られるだろう。