恋の目録
きみの眼は わたしに
夏の夜を 思い出させる
おお 潮の匂う海べの
月も出ない 暗い夜よ
そして 暗い低い空に
またたく星を 思い出させる
きみの眼は わたしに
夏の夜を 思い出させる
そしてきみの 褐色の肉体(からだ)は
陽(ひ)に燃える 麦畑を
火のような ため息は
熟れた畑を 思い出させる
きみの妹は 明るくてたおやかだ
もの憂げな 燈心草のよう
寂しげな 柳のよう
青緑色の 亜痲のよう
きみの妹は 遠い空に
またたく ひとつ星だ……
やさしい 小川の岸べで
顫えている あわれな
ポプラ林の うえの
夜明けだ 寒いそよ風だ
きみの妹は 遠い空に
またたく ひとつ星だ
きみの褐色の 魅惑で
きみのジプシーの 夢で
きみのほの暗い まなざしで
わたしのさかずきをみたしたい
空が暗くて低い ある夜
わたしは 酔うだろう
潮の匂う 海べで
きみといっしょに歌うために
くちびるのうえに 灰を
残すだろう ひとつの歌を……
きみのほの暗い まなざしで
わたしのさかずきをみたしたい
きみのかわいい 妹のために
白いアーモンドの 新しい花を
いっぱい つけた枝を
わたしは もぎ取ろう
三月の おだやかな
淋しい 夜明けに
その枝に わたしは撒こう
澄んだ 小川の水を
その枝に絡ませよう 水の中に
生えた 緑の燈心草を……
きみのかわいい 妹のために
わたしはまっ白い花束を編もう
アントニオ・マチャード 詩集『孤独』より
(マチャード/アルベルティ詩集 1997年12月 土曜美術社出版販売)