フワン・ラモン・ヒメネスに
アントニオ・マチャード
青い 澄んだ
五月の 夜
尖った 糸杉に
満月が 輝いていた
照らされる 泉に
水は 湧きあふれ
ときおり すすり泣いた
聞こえるのは 泉の音ばかり
と 見えない 夜うぐいすの
調べが高く 鳴りひびいた
激しい風が 吹き起こって
立ち昇る噴水を 吹きちぎった
そして やさしい旋律が
庭じゅうにまた ひろがった
桃金嬢(ミルト)のなかで 音楽家が
ヴィオロンの音(ね)を ひびかせた
青春と 愛のしらべを
奏でる うるわしの哀歌
泉の水と 夜うぐいすに
月と風に うたいかける
「庭のなかの ひとつの泉
泉のなかの ひとつの夢……」
哀調をおびた その声は
まるで 春の魂そのもの
歌声はやみ ヴィオロンの音(ね)も
いまはもう途切れて消えた
甘く優しく 春の愁いが
庭じゅうに あふれていた
聞こえるのは 泉の音ばかり
訳注 フワン・ラモン・ヒメネス │(一八八一ー一九五八)スペインの詩人。象徴主義的詩風で知られる。一九五六年度ノーベル文学賞受賞。
(マチャード/アルベルティ詩集 1997年12月 土曜美術社出版販売)